イエスの恋した美女・マグダラのマリア―エロスとアガーペの聖女―

イエスはおそらくヘロデ王治政(前三七〜四年)の末期に、ガリラヤの町ナザレに生まれ、紀元後三〇年頃ユダヤの都エルサレムにおいてローマのユダヤ総督ピラトラスにより十字架に処せられたものと思われます。

(一) イエスの誕生・処刑・死そして復活
イエスはおそらくヘロデ王治政(前三七〜四年)の末期に、ガリラヤの町ナザレに生まれ、紀元後三〇年頃ユダヤの都エルサレムにおいてローマのユダヤ総督ピラトラスにより十字架に処せられたものと思われます。伝記によりますとイエスはその職業上賎民とされた「羊飼い」や「東方の占術師」によって、同じく賎民とされた「馬飼い」の馬小屋のワラの中から発見されました。イエスの生涯は馬小屋で始まり処刑台で終ったのです。イエスは誕生から死にいたるまで、常に力なき民、貧しい者、小さい者、そして罪人らの中にあって、自らも賎民の一人として生き抜いたのです。
「医者を必要とするのは、丈夫な人ではなく病人である。わたしが来たのは、正しい人を招くためでなく罪人を招くためである」(マルコ二16|17)

「父は悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨を降らして下さる」(マタイ五45)
イエスはイスラエルの賎民に神の国をもたらすというメシア(救世主)としての宣言をしました。これによりイエスは時の権力者への冒涜者とみられ、アウトカースト(四姓カーストの外にあるもの。仏語では旃陀羅(センダーラ))として処刑されました。しかもその地はエルサレムの都を離れた「門の外」(ヘグル13|12)の不浄の地ゴルゴタ(されこうべの場所)の丘で十字架刑というもっとも屈辱的な形での処刑でした。

死刑囚は裸ではりつけにされ「さらしもの」とされ、死体はそのまま放置され、野獣や猛禽類のえじきとなるか「日が落ちてから夜の灯火代わりに燃やされた」(タキトウス「年代記」下二七〇P)といわれています。
イエスは死に行く苦悶の中で叫びました。「エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ」(わが神、わが神、どうして私をお見捨てになったのですか)

イエスの弟子ヨセフはイエスの死体を没薬、沈香とともに亜麻布に包んで、仮の墓に納めた。ガリテヤの女たちとともにいたく声をあげ泣き、涙を流しました。
ヨハネ福音書の復活物語は「マグダラのマリア」の姿をきわめて印象的に描いています。マリアは墓の外に立って泣き、イエスの幻を見て、その幻にすがりつく。(20・11|17)ここに描かれているのは、イエスを深く激しく愛し恋する一人の女の姿です。「復活」は死者への「愛」の継続と「幻」の中に示され、愛は死をもはるかに超越するものでした。

(二) マグダラのマリア
マリアは生前のイエスを深く愛していました。マリアはナルドの1リトラ(約三〇〇g)の香油をもって来て、イエスの足にぬり、自分の頭髪にて足を拭いました。香油の香りは家一杯に満ちました。イスカリオテのユダはこのマリアの行動に抗議の声を上げました。当時香油はとても高価なものでユダは香油を売って得られる三〇〇デリアの金を貧者に施すべきだと考えたからです。

しかしイエスは言われました。「この女のなすに任せなさい。私の葬りの日のためにこれを貯えていたのです。貧者は常にあなた方と共にあるけれども、私は常にいないのですから」(ヨハネ12|3|8)
ヨハネ福音書によりますと復活したキリストは傍らで泣いているマリアに向かって「なぜ泣いているのですか」とやさしく語りかけます。(20|15)さらに復活したキリストの身体にふれようとするマリアに対して「わたしにすがりついてはいけません」(20|17)とさとしたと言われています。これは二人のあいだの親密な関係を物語るこのエピソード|いわゆる「我に触れるな(ノン・メ・タンゲレ)」の主題として有名なテーマとなっています。

ユダヤ教のラビの説くところによると、イエスは稀にみる美男子で、その立居振舞は優雅・上品であったため、その性的魅力に吸い寄せられるように多くの女性信者が集って来たと言われています。なかでも最も熱狂的な信者はマグダラのマリアでした。この美しく肉感的なマリアは彼女の内に巣くう悪魔のために悩んでいましたが、イエスがその肌にふれるとたちまち彼女はいやされたのです。 伝承によりますと、イエスとマリアは結婚し、西暦三三年以降、三人の男子をもうけたとあります。
聖典と言えば「マタイ」「マルコ」「ルカ」「ヨハネ」の四種類があって、これらは「聖書」(共観福音書)としてまとめられ、世界最大のベストセラーとして全世界の全てに普及しています。しかしこれらが「正典」として普及したのはイエスの死後数百年後のことでした。その間これらに反する福音書は全て異端の書としてキリスト教の歴史の上から抹殺されました。
ところが一九四五年十二月、奇跡的な出来事がおこります。エジプト南部のナグ・ハマディという街の近郊の洞窟から壷中に封入された四世紀のものと思われる五十二編にも上るパピルス文書が発見されました。これが、二十世紀最大の発見とよばれる「ナグ・ハマディ文書」です。

これらの文書は原始キリスト教の真の姿を明らかにしました。これらの文書の発見に先立って、一八九六年に同じくエジプトで発見された「マグダラのマリアによる福音書」によって「マリア信仰」の真の姿が明らかにされました。この中でマリアは共観福音書の中のマリア像と全く異なる相貌を現わします。マリアは幻視を見る力に恵まれた預言者として、また男の弟子たちを励ます使徒の中の使徒として登場します。「マリア信仰」はますますつよくキリスト信仰の中に深まり拡大して行きました。

天の輝きにして生ける光
神聖にて幸福なる愛
甘美なるすべての涙と
あらゆる恩寵の泉にして
大河であるイエスよ
あなたはわたしの心を
燃え上がらせるがゆえに
わたしはマリアとともに
聖なる足元を嘆き
いついかなる時もあなたに心奪われ
引き止められるだろう

十五世紀、マリアはこのように説教師たちによって賛美されるようになります。マリアにとってイエス・キリストは肉体としての恋人であると同時に霊性としての「神」であるという矛盾しつつも統合性のある存在でした。

その後「マリア信仰」は独特の発展をとげ、更に全人民の解放に向けての「解放の神学」として現在のキリスト教社会のみならず全世界的に大きな影響を与えつづけています。
十一月二十二日 中西 久夫

《参考文献》
1 イエス伝/ルナン著 津田穣訳
2 イエスとその時代/荒井献
3 マグダラのマリア/岡田温司
4 治癒神イエスの誕生/山形孝夫
5 イエスという男/田川健三
6 イエスの現場/滝沢武人
7 エチオピアのキリスト教/川又一英
8 聖書の復讐/山内雅人
9 禁じられた福音書/エレーヌ・ペイゲルス著松田和也訳
10 ヘルメス文書/荒井献・柴田有訳
11 荊冠の神学/栗林輝夫

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